2年前、フリーズ・ロンドンとバーゼル・パリに行ってきた。
そこで感じたのは、日本の出展ギャラリーが少ないこと、そして日本人アーティストがほとんど見られなかったことだ。
日本のアートフェアではよく見かけるようなアニメ風のキャラクターが表に出てくるアートが、欧州ではほとんど見られなかったことにも驚いた。
中華圏(中国、香港、台湾など)では、日本ほどではないがアニメ風キャラクターが日本的なものの象徴として出てくることがある。しかし、ヨーロッパではそれが目立つことはない。
もちろん、パリのJAPAN EXPOでは日本のアニメが大人気だが、それはあくまでアニメ好きのファンによるものであり、アートとしての評価ではない。
これは、日本の漫画やアニメが一定の浸透を見せている一方で、それらをアートとして捉える欧州のマーケットは存在していないことを示している。
村上隆の作品が異端として迎えられ、高い価値を持つ一方で、メインステージからは遠い存在であることも、この現象の一端だと言えるだろう。
近年、原宿近辺のギャラリーでは、漫画に近いイラスト作品をアートとして販売することが多く見受けられる。
しかし、これらの作品が欧州においてファインアートとして認められるためには、まだ多くの課題が残されている。
日本国内では、可愛い女の子のイラストが売れるのは、アイドルファンのビジネスモデルと同様に、国内マーケットで成立する要素があるためだ。
しかし、欧州から見れば、これらはロリコン趣味とみなされ、大人の成熟した感覚では受け入れがたいものであることが多い。
欧州の人々にとって、アニメや漫画は幼少期の郷愁にすぎず、現在の文化の中で積極的に受け入れられているわけではない。
ジャニーズやAKBのようなカルチャーが欧米で浸透しなかったのも同様であり、幼稚なパフォーマンスや成長を見守るファン文化は、すでに成熟したパフォーマンスが求められる欧米では通用しないことが明らかだ。
このような状況下で、日本のアーティストが欧州で成功を収めるためには、単に「日本的」であることに固執するのではなく、欧州のトレンドやコンセプトを深く理解し、その中で自らの作品がどのように位置づけられるかを考えることが不可欠である。
欧州のアートシーンでは、歴史や哲学、社会問題を背景に持つ作品が高く評価される傾向がある。例えば、現代の社会問題を反映した作品や、伝統的な技術を革新して新たな表現を生み出すアートが、特に注目を集めている。
そのため、日本のアーティストが欧州で成功するためには、現地の文化や社会に対する理解を深め、その上で自らの作品をどのように展開するかを考えることが重要だ。
欧州の現代アートでは、コンセプトやストーリーが重視され、アート作品は単なる視覚的な美しさを超え、観る者に深い思索を促すものでなければならない。
日本の伝統文化や美意識をベースにしながらも、欧州の文脈に合ったテーマやコンセプトを取り入れることで、より広い受け入れが得られる可能性が高い。
さらに、マーケットの動向を常に把握し、どのような作品が求められているのかを分析することも欠かせない。
欧州の主要なアートフェアやギャラリーで取り扱われている作品を調査し、それらと比較して自分の作品がどのように差別化できるかを考えることが求められる。
例えば、デジタルアートやインタラクティブアート、エコロジカルアートなど、最新のトレンドを取り入れつつ、日本独自の感性を融合させた作品は、欧州でも高く評価される可能性がある。
結局、アートはグローバルな市場で戦うための武器である。
その武器を磨くためには、国内の評価に安住するのではなく、世界に通用する視点を持つことが不可欠だ。
欧州のアート市場で日本のアーティストが成功を収めるためには、「日本らしさ」に頼るのではなく、現地のトレンドやコンセプトをしっかりと理解し、その中で自らの個性をどう発揮するかを戦略的に考える必要があるのである。
以上の点を踏まえ、これからの日本のアートシーンが世界に向けて発信されるためには、単に作品のクオリティを高めるだけでなく、どのマーケットでどのようなアートが受け入れられるのかを見極め、その上で戦える作品を選択し、制作していくことが重要だ。
欧州での成功は、一夜にして成し遂げられるものではない。継続的なリサーチと努力、そして自らの作品を常に進化させ続ける姿勢が求められるのである。